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詩『スプーンで空へ返そう』震災への想い

 

震災への想いを、やっと書くことが出来ました。

 

***

 

『スプーンで空へ返そう』

 

手の小指の爪が剥がれてズキズキ脈打つ痛みだろうか
お腹を下して脂汗
吐いても吐いても止まぬ苦しさか

いや

違う
自分の行いを振り返ることが出来る
お前が酒をすすめるからだと愚痴も言える

ならば

別の男に彼女をとられた悔しさか
天変地異にも似ていると恋のことをよく言うじゃないか

いや 

でも

違う

 

生きている

ならば

ならば


不意に我が子を自殺で失った苦しさだろうか
そうなのだろうか
まだしも自分自身を呪える分だけ救いがあるのか


あの晴れた午後
宇宙に浮かんでいる青い星のとある小さな島が揺れた
外側から星を大きな人差し指でつんとつつかれたのではない
星がうずいたのだ

それとも身震いだっただろうか

 


石巻に炊き出しと物資の支援に行った人が言っていた
残った多くの人が家族を失っていると

意外だったのが
皆声をあらげ物を奪いあうのではなく
心静かに見えたと


心静かに見えたと聞いて
私の心に浮かぶのは
どこまで続いているのか分からない

果ての見えない湖の底

ある人は木の椅子に姿勢良く座り

ただ何をみるでもなく前をむいている


ある人は横になり体を小さく丸めて

口をうっすらと開けてかすかにうごいている


ある人は膝をかかえて顔をうずめてしゃがんでる

首筋をスス色に汚して

湖の底で今日とか明日とか未来とか関係なく
自分の今の心と一緒に沈んでいる

時に怒りみなぎり目から熱い水が落ちることもあろうが
またたくまに心の湖にとけていく

なぜ、あなたなの?

なぜ、わたしではないの?

なぜ、こんな目に?


私に出来ることはなんだろう
目の前の子ども達は

朝となれば「ご飯!」とさえずり
今日は雨だからと家にいれば

「遊んでちょうだい!」と叫ぶ

食器を洗いながら

蛇口から出てくる水を見つめ
この水は大丈夫だろうか?と不安になる


この雨は?

この風は?

この空気は?

 

見えない放射能におびえながら

そんな私に出来ることはなんだろう
未来という時間の気配を感じながら暮らせている
そんな私に出来ることはなんだろう



流しで洗ったティースプーンをひとつ見つめて思った
このスプーンで湖の水を一杯づつ救いだし空に返そう

被災地に行きスコップでドロを掻き出すことは出来なくても
この台所で

この場所で
スプーンを握り湖の水をスプーン一杯づつ救いだし空に返そう

 

ハチドリが小さなクチバシで水を運び

必死で炎を消し森を守ろうとしたように

朝になったらご飯をつくり

笑顔で「おはよう!」と子ども達に言おう
4月になったら子どもと手をつなぎ

桜の花びら散るのをみて
言葉にならない言葉を心に咲かせよう

うれしいことをやってもらったら「ありがとう」
いやなことをされたら「いやだったのよ」
いけないことしちゃったら「ごめんなさい」
人にされて嫌なことはしちゃいけません!

母親だってただの人間
子どもがいるからなんとか母親なのだ


当たり前に大事なことを当たり前に自分でできるだけ出来るように
当たり前のことを子どもにつたえながら自分を育てながら

そうして湖の水をスプーンで一杯づつ救いだし空に返そう


忘れない

忘れない
私の残りの人生の間ずっと
忘れない
忘れない
男たちがもし社会にやっきになっとしても

ずっと

そうして湖の水を一杯づつ救いだし空に返そう


今ある命を愛そう
これから来る命を愛そう
これから先延々と続くだろう命を愛そう

強さや賢さや見た目ではなく
一人一人の子を

ひとつひとつの命としてただ愛するのだ


これから子どもを産むだろう女性たちに勇気を
それを見守るすでに母親である私たちに勇気を

そうして湖の水をスプーンで一杯づつ救いだし空に返すんだ

 

 

 

本当にごめんなさい

天国に登っていったたくさんのひとたちは

誰かのママであり

誰かのおじいちゃんであり

誰かの孫であり

誰かの・・・

誰かの・・・

かわいい

かわいい

本当にかわいい子であったはずなのに

 

一人一人でなく

たんさんのうちの一人一人にしてしまって

ほんとうに

ほんとうに

ごめんなさい

 

できるだけ私の想像の中の出来るだけ一人一人の人

ひとつひとつの魂に

 

できるだけ丁寧に

ご冥福をお祈りします

 

忘れません

 

***

 

あなたの言葉を聴かせてください。

 

 

登美子